転職の判断

親の介護で転勤できない。内示を断ったら辞めるしかない?

親の介護や子育てで転勤できない時に内示が出ても、その段階で「断る=辞めるしかない」とは決まりません。会社には、転勤で介護や子育てが難しくなる社員の状況に配慮する義務があります(育児・介護休業法 26 条)。上司と人事に何をどう伝え、どんな見直しを頼めるか、勤務地限定・転勤免除の制度、拒み続けた時に裁判例で分かれた点、残るか移るかの決め方と転職の準備を始める時期をまとめました。

公開 2026年11月4日 · PREVIO 編集部

この記事で分かること

  • ・内示の段階で上司と人事に何を伝え、どんな見直し(勤務地限定への転換・転勤免除・時期の延期・通える範囲の異動)を頼めるか
  • ・会社が見直さずに辞令が出て拒み続けた時、厚労省の資料で紹介されている裁判例は何で分かれたか
  • ・残るか移るかをいつ決め、転職の準備をいつから始めるか。移る先の「転勤なし」をどこで確かめるか
目次開く
  1. 01伝えるのは「行けません」ではなく、会社が確かめられる事実
  2. 02今の会社に残れるかは、勤務地限定・転勤免除の決まりがあるかで大きく変わる
  3. 03断り続けたらどうなる? 懲戒の対象になりうるが、命令が無効とされた例もある
  4. 04転職の準備は、会社の返事を待たずに始める
  5. 05子育てで転勤できない場合も、進め方は介護と同じ
  6. 06よくある質問
  7. 07この記事の材料について

親の介護があって、今の家から離れた土地には移れない。そこへ転勤の内示が出て、転勤を断るとクビになるのかと調べたら、断って懲戒解雇になった判例が出てきて怖くなった。そんな人に先に答えると、内示の段階なら、断る=辞めるしかない、ではありません。いまが事情を伝えて見直してもらう時期です。

会社は、転勤によって家族の介護や子育てが難しくなる社員がいる時、その介護や子育ての状況に配慮しなければならないと法律で決まっています(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 26 条)。国の指針は、配慮の例として、介護の状況を把握すること、本人の意向をしんしゃくすること、転勤した場合に代わりの介護の手があるかを確かめること、を挙げています(「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」 第 2 の十五)。

ただし、これは転勤させない義務ではありません。だから「介護があるので行けません」の一言で終わらせず、会社が確かめられる事実を伝えたうえで、どう見直してほしいかを具体的に頼みます。同時に、見直されなかった時のために、転勤のない会社に移る準備も始めておきます。

伝えるのは「行けません」ではなく、会社が確かめられる事実

指針が配慮の例に挙げているのは、介護の状況・本人の意向・代わりの介護の手があるか、の 3 つです。伝える中身もこの 3 つに沿わせると、会社が判断しやすくなります。

  • 誰が介護を要する状態で、要介護度はいくつか
  • いま誰が、どれだけ支えているか(デイサービスの回数、自分が通っている頻度も)
  • 代わりに支えられる人がいない理由(きょうだいがいるなら、遠方で働いていて通えていない、などをそのまま)
  • この状態がどのくらい続きそうか(見通せなければ、その旨も)

きょうだいがいることや、介護サービスを使っていることも隠さずに書きます。会社が確かめるのは、ほかに介護を担える人や手段があるかなので、後で分かると話の信用が落ちます。ケアマネジャーに「いまの家族の負担を減らすには、どんな体制が要るか」を聞いておくと、会社への説明の材料にもなります。

どう見直してほしいかは、転換・免除・延期・近くの異動の 4 つの形で頼める

厚生労働省の資料は、会社の工夫の例として、候補者を替える、時期をずらす、通勤できる範囲の異動で代える、育児・介護など一定の事由で期間を限って転勤を免除する、を挙げています(「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」 31・33 項。法的な義務を課すものではありません)。頼む側も、「転勤させないで」の一つに絞らず、次のような案をいくつか出すと話が進みます。

  • 勤務地を限定する区分への転換
  • 一定期間の転勤免除
  • 赴任時期の延期
  • 通える範囲での異動、候補の入れ替え

上司には口頭で伝えて同じ日にメールを送り、人事には介護の制度を聞きに行く

順番は、まず上司に口頭で事情を伝え、その日のうちに同じ中身をメールで送ります(「先ほどお話しした父の介護の件を、念のためお送りします」のように)。書面でなければいけない決まりはありませんが、いつ・誰に・何を伝えたかが残ります。後で触れる裁判例では、社員が介護を申し出た後に会社が実情を調べたかが判断に響いていて、申し出た記録はその前提になります。

人事には、転勤を断りに行くのではなく、「親の介護が始まったので、使える制度を教えてほしい」と相談する形で話せます。2025 年 4 月から、介護に直面したと申し出た社員に、会社は介護休業などの制度を個別に知らせて、利用の意向を確かめなければならなくなりました(「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)。

内示の後に言い出した例も、厚労省の資料で紹介されています。内示まで家庭の事情を会社に申告していなかった社員でも、命令の 1 か月以上前に事情を伝えて応じ難いと言っていたことが考慮された例です(北海道コカ・コーラボトリング事件、仮処分。「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」)。ただ、この決定は、本人が内示まで申告せず、問題のないような家族状況届を出していたことには遺憾な点がある、とも述べています。早く伝えるほど、会社も人選や時期で調整しやすくなります。

今の会社に残れるかは、勤務地限定・転勤免除の決まりがあるかで大きく変わる

まず就業規則・人事制度で、「勤務地限定(エリア職など)への転換」と「育児・介護による転勤免除」の決まりがあるかを見ます。決まりがあれば、転勤を断るのではなく、その制度を使いたいと申し出ることになります。

労働政策研究・研修機構の 2016 年の調査(常用労働者 300 人以上の企業)では、勤務地限定正社員の区分がある企業は 15.8% でした。区分がある企業のうち、全国転勤型からの転換を「理由にかかわらず本人希望で可能」とする企業が 26.4%、「転換理由があれば可能」が 53.8% で、理由があれば可能な企業が挙げた転換理由の最多は「親等の介護」(81.5%)でした。育児・介護などによる転勤免除の制度がある企業は、転勤がある企業の 5.6% です(「企業の転勤の実態に関する調査」。制度が無くても運用で免除する会社は、この 5.6% に入っていません)。

制度が無くても、見直しを頼む意味はあります。同じ調査で、転勤経験のある正社員のうち転勤免除の配慮を求めたことがある人(12.2%)に結果を聞くと、「転勤対象から外された」29.0%、「転勤時期をずらすなどの配慮をしてくれた」22.4%、「配慮はなく、転勤した」30.6% でした(複数回答。回答者は転勤を経験した人なので、免除されて一度も転勤していない人や、辞めた人は入っていません)。求めた事情の最多は「親等の介護」(28.2%)です。

介護休業は、転勤を止める制度ではない

介護休業(対象家族 1 人につき通算 93 日・3 回まで。給付は原則、休業開始時の賃金日額の 67%)は、介護の体制を作るための休業で、休んでいる間に転勤の話が止まるわけではありません(「ハローワークインターネットサービス - 雇用継続給付」、「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)。ケアマネジャーと施設やサービスを決める、家族の分担を組み直す、といった時間に向いています。

年 5 日(対象家族が 2 人以上なら 10 日)の介護休暇、残業・時間外労働・深夜業の制限、短時間勤務などの措置(会社は連続する 3 年以上の期間で講じる)も、どれも今の勤務地で介護と仕事を続けるための制度です(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 16 条の 5・16 条の 9・18 条・20 条・23 条 3 項)。転勤そのものの話は、上の申し出と見直しの相談で進めます。

断り続けたらどうなる? 懲戒の対象になりうるが、命令が無効とされた例もある

会社が見直さず、正式な命令(辞令)が出た後も拒み続けると、そこから先は「自分から辞める」ではなく「懲戒の対象になりうる」段階に入ります。就業規則に転勤の定めがあり、勤務地を限る合意が無ければ、裁判例は会社が同意なしに転勤を命じることを広く認めている、と厚労省の資料は書いています(「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」 2 項)。

転勤を断った社員の懲戒解雇が争われた最高裁の判例に、東亜ペイント事件があります。厚労省の資料では、家庭の事情を理由に転居を伴う転勤の内示を拒み、懲戒解雇された営業担当者について、最高裁が転勤命令は権利の濫用ではないとし、命令と懲戒解雇を無効とした一審・二審の判断を破棄して差し戻した、と紹介されています(「配置転換|裁判例|確かめよう労働条件|厚生労働省」、「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」)。この判決は介護の事情を扱ったものではありません。

家族の事情があり、転勤命令が権利の濫用とされた例も紹介されています(どれも 「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」 の参考資料の紹介。ネスレ日本事件は 「配置転換|裁判例|確かめよう労働条件|厚生労働省」 にもあります)。

事件家族の事情紹介されている結論と、響いた点
ネスレ日本事件(大阪高判 平成 18 年)母が要介護 2命令は無効。会社は事前に家庭の事情を聴かず、要介護 2 と申し出た後も実情を調べずに命令を維持した
NTT 東日本(北海道・配転)事件(札幌高判 平成 21 年)両親、特に父の介護が欠かせない原告のうち 1 人について、配転は 26 条にもとり違法として慰謝料を認めた(命令の無効を確かめた判断ではない)
明治図書出版事件(東京地決 平成 14 年、仮処分)共働きで、重いアトピー性皮膚炎で通院する子命令は無効。会社は金銭的な配慮を申し出たが、命令を一度も見直さなかった
北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地決 平成 9 年、仮処分)子の病気と、両親の体調不良命令は無効。ほかに候補になりうる人がいたのに人選した

反対に、子育ての事情で従わなかった社員の停職・懲戒解雇が有効とされた例もあります。都内の異動で子の保育園の送迎ができなくなるとして出勤しなかった社員について、最高裁が一審・二審の判断を正当とした、と紹介されています(ケンウッド事件。「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」)。

権利の濫用とされた例では、事件ごとに、会社が事前に事情を聴かず申し出の後も実情を調べなかったこと(ネスレ日本)、命令を一度も見直さなかったこと(明治図書出版)、ほかに候補がいたのに人選したこと(北海道コカ・コーラボトリング)などが判断に響いています。ただ、介護の事情があれば必ず断れるわけではなく、結論は介護の重さと会社の対応を事件ごとに見て出されています。内示の段階で事実を具体的に伝えて記録に残しておくことは、見直しを頼む時にも、後で争う時にも役に立ちます。それでも辞令が出た後に拒み続ければ、懲戒の対象になりうる段階です。

転職の準備は、会社の返事を待たずに始める

残るか移るかのどちらに重きを置くかは、会社がどう応じるかで決まります。

会社の応じ方重きを置く道
勤務地限定への転換・転勤免除の決まりがある内示の段階で申し出る。残れる見込みがいちばん高い
決まりは無いが、事情を聴いて見直す事実を出して交渉し、並行して転職の準備を進める
事情を聴かず、命令を押しつける辞めて転勤のない会社に移る道を主に考える

どの行でも、転職の準備を後回しにしないのは、内示から赴任までが短いことが多いからです。2016 年の調査では、会社が決めている国内転勤の打診時期は、1 か月前までが 56.4%、2 か月前までで約 9 割でした(「企業の転勤の実態に関する調査」。常用労働者 300 人以上の企業。実際に何日前に言われたかではなく、会社のルールです)。返事を待ってから探し始めると、赴任日までに次が決まらないおそれがあります。

並行していても、会社が見直してくれたら、内定を受ける前なら活動はやめられます。気をつけるのは見直しの中身です。勤務地限定への転換なら先々まで続きますが、時期の延期だけなら、翌年また同じ話が来ることがあります。見直しの中身は書面で受け取り、どこまで続くものかを見てから、転職活動をやめるかを決めます。勤務地限定に変わった時の等級・給与・昇進の扱いは会社ごとに違うので、人事に具体的に聞いて、転職先の条件と並べて比べます。

人事に「辞めるつもりなのか」と聞かれたら、嘘をつく必要はありません。「できればこの会社で続けたいので、残れる道を相談している。ただ、転勤すると介護が成り立たないので、どうにもならなければ続けられなくなる」はそのまま本当のことで、会社が見直すかどうかを決める時の材料にもなります。転職活動をしていると自分から言う必要はありませんが、「辞めません」と約束すると後で苦しくなります。

移る先の「転勤なし」は、労働条件通知書の就業場所の「変更の範囲」で確かめる

求人票の「勤務地:本社」や「転勤なし」の一言だけでは、入社後の転勤を防ぐ約束にならない場合があります。内定の時にもらう労働条件通知書の就業場所の「変更の範囲」が限られているかを書面で見てから内定を受け、それから今の会社に退職を伝える順番にすると、同じことを繰り返さずに済みます。見方と面接での聞き方は「「転勤なし」の求人でも入社後に転勤はある?内定を受ける前に書面で確かめること」にまとめています。退職を何か月前に言うかは「退職は何か月前に言えばいい?就業規則が1か月前なら非常識ではない」で扱っています。

子育てで転勤できない場合も、進め方は介護と同じ

26 条は、子の養育が難しくなる社員も対象にしています。内示の段階で事情を伝えて見直しを頼み、並行して移る準備をする進め方は、介護の場合と変わりません。

伝える中身は違い、保育園の送迎を誰がしているか、子の通院、配偶者の勤務地と働き方、そして「子が何歳になるまで」のように事情が変わる時期の見込みが中心になります。子育ては事情が変わる時期を見込みやすいので、期間を限った転勤免除や時期の延期を、終わりの見込みと合わせて頼む形にできます。

裁判例も、明治図書出版事件のように命令が無効とされた例と、ケンウッド事件のように従わなかった社員の懲戒解雇が有効とされた例の両方があります。共働き・単身赴任になった社員の請求が退けられた例(帝国臓器製薬事件。会社は社宅や別居手当などの措置をとっていた)も、厚労省の資料で紹介されています(「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」)。保育園に預けながら転職する時の退職日と入社日の決め方は「保育園に通わせながら転職するとき、退職日と入社日はどう決める?」にあります。

よくある質問

介護休業を取れば、転勤は避けられますか?

避けられません。介護休業は介護の体制を作るための休業で、転勤を止めたり先送りしたりする制度ではありません。休業の時間は、ケアマネジャーとサービスや施設を決める、家族の分担を組み直す、といったことに使います。

転勤を断って辞めたら、会社都合退職になりますか?

ハローワークの「特定理由離職者」(正当な理由のある自己都合退職)の範囲に、通勤できなくなったことによる離職の理由として「事業主の命による転勤又は出向に伴う別居の回避」が書かれています(「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」)。親の病気などで扶養のために離職を余儀なくされた場合も、同じ範囲にあります。勤務地が契約で限られていたのに転勤を命じられた場合などは、別の扱いになることもあります。どれに当たるかはハローワークが判断します。特定理由離職者と認められた時に、失業手当の給付制限や必要な加入期間がどう変わるかは、「夫の転勤についていくなら、仕事は辞めるしかない?」の失業手当の節にあります。

転勤を断ったら、出世や評価に響きますか?

会社ごとの扱いで、一般的な答えはありません。勤務地限定の区分に転換する場合は、等級・給与・昇進の扱いが規程に書かれていることがあるので、人事に具体的に聞けば分かります。

40 代で、転勤のない会社に移れますか?

40 代の転職で年収がどう変わるかは、「40代の転職で年収は下がる? 月給と賞与を分けて見る理由」で国の統計から答えています。40 代後半の応募者を採るつもりのある求人の見分け方は「「年齢不問」は本当は何歳まで? 40代後半が狙える求人の見分け方」にあります。

この記事の材料について

  • 裁判例は、判決の原文ではなく、厚生労働省の「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」の参考資料と「確かめよう労働条件」の紹介で確かめたものです。仮処分の決定(明治図書出版事件・北海道コカ・コーラボトリング事件)を含み、別の事件で同じように判断されるとは限りません。東亜ペイント事件の差し戻し後の結論は調べていません
  • 26 条と指針は、会社に配慮を求めるもので、転勤命令が有効か無効かを決めるものではありません。読者の場合に命令を拒めるかは、事情ごとに判断されます
  • 労働政策研究・研修機構の数字は、2016 年に常用労働者 300 人以上の企業とその転勤経験のある正社員に聞いたもので、いまの全体の実態ではありません。打診時期は会社が決めているルールで、実際に言われた時期ではありません
  • 「内示」には法令上の定義が見当たらず、この記事では正式な命令(辞令)の前の打診の意味で使っています
  • 転職活動にかかる期間、勤務地限定に転換した時の年収や昇進の変わり方、地域ごとの求人の数は、この記事では調べていません。上司・人事への伝え方の順番と、残るか移るかの決め方は、この記事の判断です
  • 辞令が出た後に争う場合の相談先には、労働局の相談窓口や弁護士があります。いつ・誰に・何を伝えたかの記録が相談の材料になります
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