転職の判断

後任がいなくて引き継ぎが終わらない。退職日を延ばさずに辞めていい?

退職を申し出たのに後任が決まらず、引き継ぎが終わらない人へ。引き継ぎが終わらなくても退職日は来ます。残っている仕事は 3 つに分けられます。自分で書き出せる情報、会社に受け取る人を決めてもらう権限や契約の名義、後任が来ないと教えられない仕事です。退職日までに自分で済ませられる範囲、最初に手をつけること、上司への切り出し方、どこまでやれば「やった」と言えるかに順に答えます。

公開 2026年11月4日 · 集計 2026年11月4日 · PREVIO 編集部

この記事で分かること

  • ・引き継ぎが終わらなくても退職日は来る。期間の定めのない雇用は民法で申し入れから 2 週間で終わるとされ(就業規則に申し出の期限があり、その期間が社会通念上著しく長くなければ、まずはそれに沿うのが望ましいとされる)、労働局は、後任が見つかるまでいつまでも退職を許可しないことはできない、と書いている
  • ・終わっていないものは、頭の中の情報の書き出し、権限と契約の名義の移し替え、後任に教えることの 3 つ。退職日までに自分で済ませられるのは、書き出しと名義を移す準備まで
  • ・延ばすかは後任が来る見込みで決める。見込みが無ければ今の退職日のまま、3 つの資料を上司に手渡しとメールで受け取ってもらう
目次開く
  1. 01後任が決まらなくても、退職日は来る
  2. 02残っている仕事は 3 つ。自分で済ませられるのは 2 つ目の準備まで
  3. 03最初に作るのは 2 つの一覧
  4. 04鍵の持ち主は社内の人にする
  5. 05上司には「会社が困らないための話」として持ち出す
  6. 063 つの資料を手渡しとメールで受け取ってもらえば、「やることはやった」と言える
  7. 07延ばすなら、条件と上限の日を決めておく
  8. 08有給は、引き継ぎを理由に退職日の後ろへは回せない
  9. 09よくある質問
  10. 10出典と、分かっていないこと

退職を申し出て、転職先の入社日も決まった。ところが後任が決まらない。上司は「後任が決まるまでいてくれないと困る」と言い、自分しか知らない設定や契約、パスワードが山ほど残っている。一人で担当してきた仕事ほど、あと数週間で終わる気がしません。

引き継ぎが終わらなくても、退職日は来ます。 延ばすかどうかは、後任がいつ来るかで決めます。時期の見込みが何も出ていないなら、延ばしても辞められる日が見えてこないので、今の退職日に合わせて準備を組む方がよいと考えます。

そのうえで、「終わらない」と感じているものは 3 つに分けられます。後任がいなくても自分で進められるものと、会社に決めてもらうものと、後任が来ないと始められないものです。退職日までに自分で済ませられるのは前の 2 つの準備までで、そこまで用意して上司に渡せば、やるべきことはやったと言えます。

後任が決まらなくても、退職日は来る

期間の定めのない雇用は、解約の申し入れから 2 週間で終わります(「民法」 627 条 1 項)。茨城労働局は、新しい人が見つかるまで退職を許可しなくてよいか、という事業主からの問いに、いずれにしても「新しい人が見つかるまで、いつまでも退職を許可しないということはできません」と答えています(「退職の申出があった際には」(茨城労働局))。

厚生労働省も、会社が退職を認めなかったり条件を出したりしても、期間の定めのない雇用なら申し入れから原則 2 週間で契約は終わる、と説明しています(「退職、解雇、雇止めなど|しっかり学ぼう!働くときの基礎知識|確かめよう労働条件|厚生労働省」)。就業規則に「1 か月前まで」のような申し出の期限がある時に、民法とどちらが優先するかは見解が分かれている、と茨城労働局は事業主向けのページ(上の「退職の申出があった際には」(茨城労働局))に書いています。また労働者向けのページでは、その期間が社会通念上著しく長くなければ、まずは就業規則に沿って申し出るのが望ましい、としています(「やめたいのにダメと言われて困ってる」(茨城労働局))。

一方で、引き継ぎをしなくてよいわけではありません。厚生労働省の冊子は、引き継ぎをするなど社会的ルールを守って辞めることが大切、と書いています(「知って役立つ労働法」)。ただ、引き継ぎを「終わらせる」義務や、後任を見つけてくる義務を定めた条文は見当たりません。退職日までにできる範囲で丁寧にやり、残りは会社に渡す、というのがこの記事の立場です。

残っている仕事は 3 つ。自分で済ませられるのは 2 つ目の準備まで

終わっていないもの例誰が進めるか
1自分の頭とメモの中にしかない情報を書き出すシステムの構成、取引先の窓口と契約の更新月、年 1 回の作業、障害時の手順自分だけで進められる
2自分の名前になっている権限や契約を、会社の人に移す管理者アカウント、契約者の名義、取引先への担当者登録手順は自分で作れる。受け取る人は会社が決める
3後任に教えて、一人で回せるようにする月次の作業を一緒に 1 回やる、障害対応を横で見てもらう後任が決まらないと始められない

「終わらない」と感じる一番の理由は 3 つ目です。後任がいない以上、教えることは始められません。2 つ目も、受け取る人を会社が決めない限り止まります。自分だけで最後まで進められるのは 1 つ目です。

そこで、退職日までに自分で済ませられるのは、1 つ目と、2 つ目の準備(移す手順と、移す先が決まっていない一覧)までだと考えます。3 つ目と「誰が受け取るか」は、後任を決める会社の側の仕事です。これは条文が決めていることではなく、書き手の判断です。後任を誰にするかは上司が決める、という整理は退職は何か月前に言えばいいかの記事と同じ立場です。

一人で情シス、経理、人事を回してきた人ほど、この 3 つが混ざって「全部終わっていない」に見えます。分けると、自分の手で減らせるものがはっきりします。

最初に作るのは 2 つの一覧

全部を書き出そうとすると、最初の 1〜2 週が手順書で埋まります。先に作るのは、止まると困る順の一覧 2 つで、手順書はその後に書き足す方が効きます。

1 つは、自分の名前で持っている鍵の一覧です。管理者アカウント、契約者になっているもの、取引先に担当者として登録されているもの、登録メールが自分の個人アドレスになっているもの。中身はまだ書かず、名前だけで足ります。これが「会社に受け取ってもらう範囲」になります。

もう 1 つは、退職後半年以内に期限が来るものの一覧です。契約やライセンスの更新、証明書の期限、年 1 回の作業。いつ、何を、どこに頼むかを 1 行ずつ書きます。

期限が退職の直後に来るものは、一覧を待たずに今すぐ動かします。たとえば一人情シスなら、会社のドメインの更新が退職の翌月に来るのに、登録先の連絡先が自分の個人アドレスのまま、という場面です。このままだと、更新の案内も何かあった時の連絡も、退職後に受け取るのは自分になります。連絡先は、個人ではなく会社で受け取れるアドレス(総務の共有アドレスなど)に移しておきます。

鍵の持ち主は社内の人にする

管理者権限を渡せる人が社内に思い浮かばない、という時は、「持ち主」と「作業する人」を分けて考えます。

持ち主は社内の人にします。管理画面を触れなくてもかまいません。会社として入れる鍵を持っている人、という役です。設定の変更や障害対応は、外の業者に頼めるかを会社に決めてもらいます。今の保守契約に入っているかは契約しだいなので、ここは会社に確かめてもらうところです。

外の業者だけに預けると、その契約が切れた時に会社が入れなくなるおそれがあります。社内に持ち主が 1 人いれば、それは防げます。

パスワードは、メモを紙で丸ごと渡すのは避けます。パスワード管理ツールに会社名義の保管場所を作って持ち主が開けるようにするか、費用をかけられないなら封をした封筒で保管して受け取りのサインをもらう形があります。どちらでも、退職日までに自分しか知らないパスワードを変え、自分は入れない状態にしておけば、鍵の受け渡しは済みます。

上司には「会社が困らないための話」として持ち出す

上司と長い付き合いがあると、法律を盾に突っぱねる形にはしたくないものです。その必要はありません。「後任が来るまでの間に、会社が困らない形を作りたい」と話せば、会社が困るのを心配している上司と同じ側に立てます。

頼みごとは、後任の話とは分けて、日付つきで短くします。たとえば「名前で持っている鍵を会社側に移したいので、持ち主を 1 人決めてもらえませんか。○日までに決まれば、その人と一緒に確認します」。2 つの一覧ができるのを待たずに今週話し、一覧は翌週「先週お願いした件の一覧です」として持っていくと、話がつながります。持ち主を決めるのにも、連絡先の移し先を決めるのにも、会社の側で時間がかかるからです。

「手順書を書いても誰も読めない」と返されたら、読むのは上司ではなく、後任や外の業者です、と返せます。後任の話に戻されたら、「それは会社で進めてもらうとして、その間に困らないための話です」と言って鍵の話に戻します。

一覧を見せる時は、「退職日までに自分で終えるもの」と「会社に決めてもらうもの」に分けて出します。 混ぜて出すと、長い一覧が「ほら、終わっていない」の材料になります。終わっていないのは後者で、後者は後任がいてもいなくても会社が決めることです。「ここを決めてもらえれば、前者は退職日までに終えます」と言えます。

持ち主が決まらないまま日が過ぎて、上司を飛ばして総務や社長に相談したくなったら、先に上司に一言断ってから行きます。「鍵の件、総務に相談してもいいですか。会社の契約の話なので」と断っておけば、上司の頭越しに動いたことにはなりません。

3 つの資料を手渡しとメールで受け取ってもらえば、「やることはやった」と言える

どこまでやれば足りるかに、法律の線引きはありません。ここからは書き手の判断です。次の 3 つを上司に渡せば、やるべきことはやったと言えると考えます。

  1. 頭とメモの中身を書き出した資料
  2. 鍵を移す手順と、まだ移せていないものの一覧
  3. 後任が来たら一緒にやっておきたい作業の一覧

この 3 つを退職日の 1〜2 週間前までに上司に手渡しし、同じものをメールでも送って「受け取りました」の返事をもらいます。何を渡したかが後から分かる形にしておけば、自分の側の引き継ぎは済んだと言えます。決めてもらえなかった部分は、受け取った会社の側で引き取ることになります。

最終日になっても鍵の受け取り手が決まらなければ、上司が受け取る人です。机に置いて帰るのではなく、変更後のパスワード一式(または管理ツールの入り方)を封をして上司に手渡しし、何を渡したかをメールで送っておきます。その後に誰へ渡すかは、会社が決めることです。

延ばすなら、条件と上限の日を決めておく

延ばすかどうかは自分で決めてよいことです。後任が来月には異動で来る、と時期が見えているなら、短く延ばすのも選択肢に残ります。

その時は、何が終われば辞めるかの条件と、上限の日を決めておきます。「後任が○日までに決まれば、月次の作業を 1 回一緒にやってから」のような形です。「後任が決まるまで」とだけ約束すると、いつ辞められるかがまた見えなくなります。

内定の後に入社日をずらしたいと言うのは、転職先への「お願い」になります。内定を取り消せるのは、内定の時には知ることができなかったか、知ることが期待できなかった事実を理由とし、取り消すことが客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限られるとされています(「採用内定の取消|裁判例|確かめよう労働条件|厚生労働省」、大日本印刷事件)。一方で、入社日を条件に内定を出したのなら取り消しはありうる、入社日がずれると内定の取り消しも想定される、と書く企業向け・公的な Q&A もあり、入社日の決め方の記事で紹介しています。ずらしてもらった人がどれくらい取り消されたかの統計はありません。

有給は、引き継ぎを理由に退職日の後ろへは回せない

引き継ぎが終わらないから有給は諦める、と決める必要はありません。会社は事業の正常な運営を妨げる時に有給の時季を変えられますが、退職日を越えて変えることはできません(「年次有給休暇(年休・有休)について」(大阪労働局))。和歌山労働局は事業主向けに、退職前の引継ぎなどが必要なら退職日を遅らせてもらうなど、退職する労働者と話し合った方がよい、と書いています(「和歌山労働局|主な相談内容|事業主の方へ」)。引き継ぎのために話し合うなら、有給ではなく退職日を動かすかどうかを話すことになります。

日数が足りない時は、先に 2 つの一覧と 3 つの資料に要る日数を決め、残りを有給にあてるのがよいと考えます。日数の数え方は[有給消化と入社日の記事](/guide/yukyu-shouka-nyusha-kaburu#40 日使い切るなら、最終出社は入社日の 2 か月近く前になる)で説明しています。

よくある質問

引き継ぎが終わらないまま辞めたら、損害賠償を請求されますか

「大丈夫」とまでは言えません。ただ、損害賠償の額を前もって決めておく契約は、労働基準法 16 条で禁じられています(「労働基準法」)。請求が認められるかは、会社に損害が生じたか、その損害が退職によって生じたかを見て判断される、と厚生労働省は説明しています(「長期契約を結んだものの、途中で退職した場合には損害賠償請求されますか?|Q&A|確かめよう労働条件|厚生労働省」。有期契約の相談への回答です)。

厚生労働省のサイトに載っている裁判例(ケイズインターナショナル事件)は、入社して間もなく辞めた事案です。期間の定めのない雇用の月給者に債務不履行を問えるのは当月末まで、などの事情から、請求 200 万円が 70 万円に減らされました(「辞職|裁判例|確かめよう労働条件|厚生労働省」)。予告どおり申し出て引き継ぎをしている事案の例は、公的な資料には見つかりませんでした。繁忙期に辞める場合の話は退職は何か月前に言うかの記事にもあります。

退職した後に前の会社から問い合わせが来たら、応じないといけませんか

退職後の問い合わせに応じる義務を書いた公的な解説は見当たりません。応じるかは自分で決めてよいことです。応じるなら、「退職後 1 か月、メールでの質問だけ」のように範囲と期限を決めて、退職前に伝えておきます。電話がかかってきても、「メールでお願いします」と返せます。応じる期間が入社後にかかるなら、転職先の副業の決まりとも関わってきます。決まりは会社で違うので、転職先の就業規則で確かめておくと安心です。

「引き継ぎが不十分だったから退職金を減らす」と言われることはありますか

退職金を減らす・払わない条件は、退職金規程に書かれるのが普通です。まず自分の会社の規程を読み、そうした条件があるか、あるならどういう場合かを確かめます。今回の事情がそれに当てはまるかは、ここでは言い切れません。実際に減らすと言われたら、規程を持って労働局の総合労働相談コーナーに相談できます。

上司に「引き継ぎが終わらないなら辞められない」と言われたら

茨城労働局は労働者向けに、就業規則などに特に定めが無ければ、会社の承諾がなくても、退職の意思が伝わった日の翌日から 14 日が過ぎれば法律上は退職が成立する、と書いています。就業規則に申し出の期限があり、その期間が社会通念上著しく長くない場合(たとえば 1 か月前まで)は、就業規則に沿って申し出るのが望ましい、ともしています(「やめたいのにダメと言われて困ってる」(茨城労働局))。何度伝えても退職日を認めてもらえない時の考え方は、退職の引き止めの記事で扱っています。

出典と、分かっていないこと

  • 出典はすべて 2026 年 11 月 4 日に確認しました。法令は e-Gov の条文です
  • この記事は、期間の定めのない雇用(いわゆる正社員)で働く人を主にしています。契約社員など期間の定めがある契約を途中で辞めるには、原則としてやむを得ない事由が要り、事情によっては損害賠償の責任を負うとされています(民法 628 条)
  • 引き継ぎを終わらせる義務や後任を見つける義務を定めた条文、退職後の問い合わせに応じる義務を述べた公的な解説は見つかりませんでした
  • 期間の定めのない雇用で、就業規則どおり申し出て辞めた人に、引き継ぎ不足を理由とする損害賠償が認められたかを示す公的な裁判例の抄録は見つかりませんでした。ケイズインターナショナル事件は入社して間もなく辞めた事案で、この記事の場面とは違います
  • 入社日をずらしてもらった人のうち内定を取り消された割合、引き継ぎに要る期間の目安を示す統計はありません
  • 「自分で済ませられるのは 1 つ目と 2 つ目の準備まで」「3 つの資料を渡せばやるべきことはやったと言える」「延ばすなら条件と上限の日を決めておく」は、上の資料をもとにした書き手の判断です。違法かどうか、会社と話がつかない時にどうなるかは個別の事情で決まるので、労働局の総合労働相談コーナーで確かめてください
  • 文中の例は架空のものです
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