転職の判断

競業避止の誓約書にサインしたら同業に転職できない?退職時の対応と内定先への伝え方

退職を伝えたら「退職後 2 年間、同業他社に就職しない」という誓約書を渡された人に向けて、その場でサインしなくてよいか、サインしたら同業に行けなくなるのか、内定先にどう伝えるかをまとめました。裁判所が有効かを判断する時の 6 つの点と、退職日までと入社後に気をつけることも載せています。

公開 2026年11月4日 · PREVIO 編集部

この記事で分かること

  • ・その場でサインしなくてよく、行き過ぎた内容なら保留して相談するよう県が案内している。誓約書の中身は 1 枚でも別々の約束で、「同業に就職しない」と「担当した顧客に営業しない」は重さが違う
  • ・サインしても同業に行けなくなるとは限らない。裁判所は期間・禁止の範囲・見返りなど 6 つの点で見る。2 年は認められた例も否定された例もある長さ
  • ・内定先には前の会社に返事をする前に紙の写しを共有する。退職日までは内定先の仕事を手伝わず、顧客の資料は持ち出さない
目次開く
  1. 01その場でサインしなくていい。「内容を確かめたいので数日ください」で保留できる
  2. 02誓約書は 1 枚でも中身は別々の約束。「同業に就職しない」と「担当した顧客に営業しない」は重さが違う
  3. 03サインしても同業に行けなくなるとは限らない。裁判所が見るのは 6 つの点
  4. 04サインの前は、範囲を絞れるか・期間を短くできるかを会社に聞ける
  5. 05内定先には、前の会社に返事をする前に紙の写しを共有する
  6. 06退職日まで・入社後は、同業の仕事を先に手伝わず、顧客の資料を持ち出さない
  7. 07同業への転職を考え直した方がいいのは、会社独自の情報に深く関わっていた時
  8. 08よくある質問
  9. 09この記事の出典と、分かっていないこと

同業の会社から内定が出て、退職を伝えたら、人事から「退職後 2 年間、当社と競合する会社に就職しない」という誓約書を渡された。最終出社日までに出してと言われているが、サインしたら内定先で働けなくなるのか、断ったら何か起きるのか、内定先に言うべきかが分からない。

その場でサインしなくてかまいません。福岡県の労働相談は、誓約書の内容に行き過ぎた部分があれば、提出をいったん保留して労働組合や弁護士などの助言を得てから考えるよう案内しています。サインしても同業に行けなくなるとは限らず、裁判所は期間・禁止の範囲・見返りなどを見て判断します。2 年という期間は認められた例も否定された例もある長さです。それより、「同業他社に一律で就かない」と範囲を広く取っているか、見返りがあるかで判断が分かれます。内定先には、早めに紙を見せて伝えてください。経済産業省も、受け入れる会社に、転職者が前の会社に負う義務を確かめるよう勧めています。

その場でサインしなくていい。「内容を確かめたいので数日ください」で保留できる

福岡県の「秘密保持義務と競業避止義務」は、就業規則に誓約書を出す決まりがある場合でも、内容に不適切な部分や行き過ぎた部分があれば一時的に提出を保留し、労働組合や弁護士などの助言を得てから、出すべきかを考えるよう案内しています。宮城県の「同業他社への就業・転職制限(競業避止義務)について」も、納得できなければサインの前に会社とよく話し合うよう勧めています。

人事には「サインできません」ではなく、「内容を確かめてから出したいので、数日ください」と返せば足ります。

保留している間も、辞めることはできます。期間の定めのない雇用は、辞める申し入れから 2 週間で終わります(「民法」 627 条)。ただし、就業規則に「1 か月前に申し出る」のような退職の定めがあれば、原則としてそれが適用されます。極端に長い申し入れ期間の定めは無効とされることもあります(大阪労働局「よくあるご質問(退職・解雇・雇止め)」)。退職した人が請求すれば、会社は 7 日以内に給料を払う決まりです(「労働基準法」 23 条)。

誓約書は 1 枚でも中身は別々の約束。「同業に就職しない」と「担当した顧客に営業しない」は重さが違う

「同業に行かない約束」に見える誓約書も、読むと性質の違う条項が並んでいることがあります。よく見る条項は次のとおりです。

条項どんな約束か転職との関係
秘密保持顧客リスト、見積り・提案書、価格表、社内の案件情報を持ち出さない・使わない転職そのものは止めない。持ち出しは誓約書が無くても別の決まりで問題になりうる
同業他社への就職禁止「退職後 2 年間、当社と競合する会社に就職しない」転職そのものを止める約束。一律に転職を禁じる書き方は、合理性が認められないことが多い
担当した顧客への営業禁止「在職中に担当した顧客に、退職後一定の期間、競合する商品を売り込まない」会社に移ることは禁じていない。入社後にどの顧客を担当するかに関わる
引き抜きの禁止元の部下や同僚を誘わない転職そのものは止めない
転職先の報告・事前の相談「他社で働く前に会社に相談する」転職先を伝えることになる
違反した時の退職金の減額・不支給退職金規程とつながっている条項退職金規程の条文と合わせて読む
債権債務なしの確認「会社に対して何の請求もない」転職とは別。未払いの残業代などがある人は特に注意

いちばん違うのは、同業他社への就職禁止と、担当した顧客への営業禁止です。前者は転職そのものを止めます。後者は、営業職なら前の担当先に売りに行かないというだけで、同業の会社に入ること自体は止めません。経済産業省が判例を整理した資料も、在職中に担当した顧客への競業を禁じる程度の限定でも肯定した判例がある、と書いています(「競業避止義務契約の有効性について」)。

顧客の条項は、動詞も見てください。「営業しない」「勧誘しない」は自分から売り込むことを指しますが、「取引しない」と書かれていると、相手から頼まれて取引する場合まで含むように読めます。

サインしても同業に行けなくなるとは限らない。裁判所が見るのは 6 つの点

退職後に同業へ移らない義務は、就業規則や個別の約束など、はっきりした根拠が無ければ当然には生じない、というのが学説の一般的な理解です。ただし、前の会社の営業秘密を使った競業は、約束が無くても不正競争防止法で制限されることがあります。一方で、約束があれば必ず効くわけでもありません。有効かどうかは個々の事案ごとに最終的に裁判所が判断します(厚生労働省の「競業避止義務の明確化について」)。

経済産業省が平成 24 年度(2012 年度)の委託調査で 50 以上の判例を整理した「競業避止義務契約の有効性について」によると、裁判所は次の 6 つの点を見ています。

見る点誓約書と自分の立場で見る所2012 年度の調査で整理された判例の傾向
守るべき会社の利益持っているのは会社独自の技術・ノウハウか、営業として身につけた人脈や交渉の仕方か人脈や交渉の仕方の流出防止は正当な目的と言えないとした判例がある。長期間の地道な営業で、会社の信用や業務として顧客との関係を築いた場合は、会社側の利益があると判断されやすい
地位全社の戦略や価格方針を知る立場か、1 人の担当者か肩書きより、守るべき情報に接していたかで見る
地域場所を限っているか地域の限定が無いことだけで、有効性を否定しない傾向がある
期間何年か1 年以内は認められた例が多い。2 年は認められた例も否定された例もある
禁止の範囲「同業他社への就職」と一律に書いているか、職種や担当顧客で絞っているか一律の転職禁止は合理性が認められないことが多い。絞った書き方は認められやすい
見返り手当、上乗せの退職金、高い給与があったか見返りが何も無いと、有効と認められないことが多い。ただし見返りだけでは決まらない

「2 年間、同業他社に就職しない」と一律に書かれ、見返りの手当も無い誓約書は、禁止の範囲と見返りの 2 点で、有効と認められにくい書き方に当たります。期間の 2 年だけでは、どちらとも決まりません。

営業の仕事に近い判決もあります。保険会社の執行役員に課された 2 年の転職禁止について、人脈や交渉の仕方のように転職すれば多かれ少なかれ使われるものの流出を防ぐのは正当な目的と言えず、顧客情報の流出を転職禁止で防ぐのは手段として過大だ、とした判決です(東京地裁 平成 24 年 1 月 13 日、東京高裁 平成 24 年 6 月 13 日。同じ資料の紹介)。一方で、多数回の訪問や長期間の地道な営業が必要で、顧客との関係が会社の信用や業務として築かれた場合は、会社側の利益があると判断されやすい、と同じ資料は整理しています。反対に、取引先との信頼関係は従業員が個人として得たものだとした判決(大阪地裁 平成 8 年 12 月 25 日。同じ資料の紹介)や、顧客との関係を守る目的に一応の正当性はあるが、顧客の開拓がもっぱら会社の投資によるものとは認められず、大きく見ることはできないとした判決(東京地裁 平成 24 年 1 月 23 日。同じ資料の紹介)もあります。前の担当先との関係が会社のものと見られるかは、その関係がどう築かれたかで変わります。

地位の高い人の例では、家電量販店の地区部長・店長に課された 1 年・地域の限定なしの競業避止を、不合理ではないとした判決があります(ヤマダ電機事件。厚生労働省の同じ資料の紹介)。

サインの前は、範囲を絞れるか・期間を短くできるかを会社に聞ける

会社には、条項ごとに返事ができます。「顧客の条項は守ります。同業 2 年の方は、範囲を担当した顧客や職種に絞るか、期間を短くできませんか」と返せば、拒否ではなく調整の話になります。

退職金の話が出ているなら、誓約書ではなく退職金規程を見ます。退職金が出るか、いつ出るかを決めるのは規程の条文で、違反した時の減額・不支給の条項もそこにつながっています。経済産業省の資料には、退職金の減額や不支給が争われる中で、競業避止の定めの効力が問題になった事案も挙がっています。人事には「サインする前に内容を確かめたいので、関係する就業規則と退職金の規程を見せてください」と、誓約書を確かめるための頼みごととして伝えるのが自然です。

相談先は、福岡県の案内では労働組合や弁護士などです。宮城県の案内では、話し合いで解決しなければ、宮城労働局または労働基準監督署の中にある総合労働相談コーナーに相談でき、県の労働委員会のあっせんも利用できる場合がある、としています。

内定先には、前の会社に返事をする前に紙の写しを共有する

内定先に伝えるのは、余計なことではありません。経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」は、転職者を受け入れる会社に、転職者が前の会社に負う秘密保持や競業避止の義務の有無と内容を、面接などで確かめるよう勧めています。不要なトラブルを避け、転職者の力を生かせる配属にするためです。

受け入れる会社の側にも関わる話です。同じハンドブックは、転職者が持ち込んだ情報が前の会社の営業秘密だと知らなかったとしても、重大な過失があれば不正競争防止法の請求の対象になりうる、と受け入れ企業向けに書いています。他社の営業秘密が自社に入り込むのを防ぐ観点から、同業他社からの転職者は特に注意するようにとも書いています。前の会社から警告の書面が届いて初めて、転職者の負う義務の一部が分かるケースもある、とも書いています。

伝える相手は、これまでやりとりしてきた内定先の人事です。時期はできれば前の会社に返事をする前にします。相談ではなく共有として、「前職から退職時にこういう誓約書を求められています。配属の参考に共有します」と紙の写しを添えます。あわせて、入社後に前の担当先をどう扱うか、配属で相談できるかを聞いておきます。

退職日まで・入社後は、同業の仕事を先に手伝わず、顧客の資料を持ち出さない

次の 2 つは、誓約書にサインするかどうかと関係なく守ります。

1 つは、退職日までは今の会社の社員として働くことです。誓約書が無くても、在職中は会社と競合する行為をしない義務がある、と一般に解されています。根拠は信義誠実の原則で、「労働契約法」 3 条 4 項はこの原則を一般的に定めた条文です。内定先の仕事を入社前に手伝うのは避けます。担当先への退職の挨拶で転職先を聞かれた時も、その場で次の会社の売り込みをしないことです。

もう 1 つは、顧客リスト、提案書、見積りを、私物のスマートフォンや個人のメールに送らないことです。秘密として管理されているなどの要件を満たす営業秘密は、契約が無くても「不正競争防止法」で守られます(2 条 6 項)。厚生労働省のひな形の「モデル就業規則 令和7年 12 月版」も、会社や取引先の機密を漏らさない義務を「在職中及び退職後においても」と書いています。自分の会社の就業規則にも同じような条文があるかもしれません。

入社後に前の担当先から「新しい会社でも相談に乗ってよ」と連絡が来たら、その場で引き受けず、新しい会社の上司に報告して扱いを決めます。

同業への転職を考え直した方がいいのは、会社独自の情報に深く関わっていた時

判例の整理で、会社側の利益が認められやすいのは次のような場面です。当てはまるなら、内定を受ける前に紙を持って相談先に行き、慎重に決めた方がいいと考えます。

  • 会社独自の技術やノウハウ、全社の価格戦略に深く関わっていた
  • 誓約の見返りの手当や上乗せをすでに受け取っている
  • 移る先で、前の担当先そのものを相手にする仕事になる
  • 顧客を連れて行くつもりがある(この場合は競業避止より先に、秘密保持や営業秘密の問題になる)

営業として身につけた人脈や交渉の仕方については、上の保険会社の執行役員の判決のように、その流出を防ぐことは正当な目的と言えないとした判例があります。

よくある質問

退職時の誓約書は拒否できますか

拒否できるかどうかを書いた公的な案内は、確かめた範囲では見当たりませんでした。福岡県は、行き過ぎた内容ならその場で出さずに保留し、労働組合や弁護士などの助言を得てから考えるよう案内しています。宮城県は、サインの前に会社とよく話し合うよう勧めています。なお、サインしなければ何にも縛られないとは限りません。在職中の義務は誓約書が無くても生じ、宮城県は退職後も在職中の誓約書などで制約される場合があると書いています。

同業他社への転職禁止 2 年は長いですか

2012 年度の国の調査で整理された判例では、1 年以内は認められた例が多く、2 年は否定された例も認められた例もあります。年数だけでは決まらず、同業に一律に就かないという範囲の広さと、見返りがあるかも合わせて見られます。

もうサインしてしまいました。同業に行けませんか

行けなくなるとは限りませんが、効かないとも言えません。化学金属工業の特殊な分野で、会社の技術上の秘密を知る従業員に課された 2 年・地域の限定なしの競業避止を、有効とした古い判決があります(フォセコ・ジャパン事件。厚生労働省の「競業避止義務の明確化について」の紹介)。サインした後でも、裁判所は同じ 6 つの点で見ます。控えのコピーをもらってください。そのうえで、前の担当先への営業と資料の持ち出しは避けてください。担当した顧客への営業禁止は一律の転職禁止より認められやすい約束で、資料の持ち出しは誓約書と別に営業秘密の問題になりうるからです。

サインしたら訴えられますか

訴えられることがないとは言えません。どれくらい起きているかを示す資料は見つかりませんでした。担当した顧客への営業禁止は、一律の転職禁止より有効と認められやすい約束です。顧客の資料の持ち出しは、誓約書と別に不正競争防止法の営業秘密の問題になりえます。サインした後は、この 2 つを特に避けてください。

同業他社に転職するのは裏切りですか

裏切りではないと考えます。職業選択の自由は憲法で保障されていて(「日本国憲法」 22 条)、競業避止の約束は秘密保持の約束と違って、より直接に職業選択の自由を制限するおそれがある、と経済産業省も企業向けの資料で書いています(「「秘密情報の保護ハンドブック」における退職者向けの情報漏えい対策と「競業避止義務契約の有効性について」」)。問われるのは移ることそのものではなく、前の会社の情報や担当先をどう扱うかです。

同業に転職したらバレますか

担当先に退職の挨拶をすれば、転職先は前の会社にも伝わると考えておいた方がいいでしょう。隠せるかどうかより、誓約書の範囲がどう書かれているかと、入社後に前の担当先をどう扱うかで動き方を決める方が確実です。内定先にも共有しておけば、配属を相談できます。

この記事の出典と、分かっていないこと

  • 出典はすべて 2026 年 11 月 4 日に確認しました。法令は e-Gov の条文です。経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」は 2024 年 2 月の改訂版を、厚生労働省のひな形は「モデル就業規則 令和7年 12 月版」を使いました。福岡県の資料は版の日付が書かれておらず、宮城県の Q&A は 2025 年 3 月 18 日の掲載で、入社時の誓約書についての相談への回答です
  • 判例の傾向は、経済産業省の「競業避止義務契約の有効性について」が平成 24 年度(2012 年度)の委託調査で整理した時点のものです。その後の判例は含めていません。資料自身も、判例は個別の事情によるところが大きいとしています
  • 誓約書が有効か無効かは、個々の事案ごとに最終的に裁判所が判断します。この記事は特定の誓約書について結論を出していません。手元の紙は、労働組合や弁護士、労働局の相談窓口に見せて確かめてください
  • 誓約書を出さなかった場合に退職金や離職票がどうなるかは、根拠にできる資料が見つからず、書いていません。退職金は、会社の退職金規程を確かめるところまでにしています
  • 内定先に伝えた後に内定がどうなるか、受け入れる会社が実際に配属で調整するかは会社しだいで、資料はありません
  • 弁護士への相談費用と、法テラスなどの無料相談の条件は扱っていません
  • 条項の表のうち、引き抜きの禁止、転職先の報告・事前の相談、債権債務なしの確認は、よく見る書き方の例で、公的資料で確かめたものではありません
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